制作工程管理はもちろんのこと、幅広い専門知識とスキルが求められると言われ続けてウン十年。様々な規格やツールが統一してほしいと願い続けるお仕事です。
標準ルール・ガイドブックからWebディレクターの変化を探る
スマホが一般的に認知されるようになってからそろそろ10年経ちます。当時、この業界はドッグイヤーのようなスピード感で目まぐるしく変化していくと言われており、自分の知識があっという間に陳腐化していくよう危機感がありました。
そんな危機感も自分の職域を拡張したり、事業領域をスライドさせていくことによって、今もこの仕事でご飯を食べていけてます。
さて、自分の原点でもあるWebディレクションの仕事は毎年のよう「Webディレクターになるには本」や、「Webディレクターの標準ルール本」が出版されています。自分が商業作品のWebディレクターになったのが2008年です。
当時、数冊Webディレクションに関する本を購入しており、今でも自宅に残っていたのが2007年初版の「ウェブの仕事力が上がる標準ガイドブックWebディレクション」でした。今でも続いているWeb検の公式テキストです。
比較対象として用意した現代の本が、2017年3月初版の「Webディレクションの新標準ルール」です。
なお、本来比較対象として理想的だったのは、Web検公式テキスト2017年版を使用することなのですが、ご容赦くださいませ。
今回比較した2冊です。
目次で比較するWebディレクターに必要な知識と変化
ページ数はボリュームの参考までに。
ウェブの仕事力が上がる標準ガイドブックWebディレクション(2007年初版)
- 第1章 インターネットビジネス(p.13〜32)
- 企業におけるWebサイト運営
- Webサイトの運営体制
- リスクマネジメント
- インターネットビジネス/サイトに関連する法規
- 情報セキュリティポリシー
- 著作権
- クリエイティブ・コモンズ
- 第2章 プロジェクトマネジメント(p.33〜110)
- Web業界の構造
- プロジェクトの流れ
- 提案依頼、提案依頼書(RFP)
- オリエンテーションとヒアリング
- プレゼンテーション
- 要件定義
- プロジェクト計画、計画書
- 受注と契約の締結
- プロジェクトマネージャー(PM)の役割
- リソース管理
- スケジュール管理
- 予算/コスト管理
- コミュニケーション管理
- 外注管理
- 素材・ドキュメント管理
- 品質管理
- 第3章 Webサイトの企画(p.111〜150)
- Webサイトの狙いとゴール
- 現状把握
- 現状分析
- 分析ゴールの設定
- 評価・分析手法
- エキスパート評価1
- エキスパート評価2
- ユーザーアンケートの実施
- ネット視聴率調査
- アクセス解析の基本情報
- アクセス解析の分析ゴール
- アクセス分析結果のとらえ方
- コンテンツの企画
- システムの企画
- 第4章 Webサイトの設計(p.151〜214)
- 情報構造設計の重要性
- Webユーザビリティ
- ターゲットの設定
- ペルソナとユーザーシナリオ
- 全体構造の設計
- ハイレベルサイトマップ
- ユーザーインターフェイス設計
- ナビゲーション設計
- コンテンツマッピング
- 詳細サイトマップ
- ワイヤーフレーム
- コンテンツ仕様書
- 制作仕様書
- 第5章 集客施策(p.215〜244)
- 生活者のネット行動と消費マインド1
- 生活者のネット行動と消費マインド2
- ネット広告手法1 インターネット広告
- ネット広告手法2 モバイル広告
- アフィリエイト広告
- キーワードマーケティング
- SEOと検索エンジン対策
- SEMと検索連動型広告
- ランディングページの最適化
- マーケティング効果検証
- ネットでのブランディング
- 補章 Webの概念と未来像(p.245〜253)
- WWWの仕組み
- ブランディング環境
- ユーザーの成熟と高まるリテラシー
Webディレクションの新標準ルール(2017年初版)
- CHAPTER1 ディレクションの目的と役割(p.9〜36)
- いま求められるディレクションの理想型
- ディレクションの成り立ちと時代による変化
- Web制作におけるトレンドと新技術
- プロジェクトの工程管理とリスクヘッジのあり方
- サイトの規模で変わる作業量と「商流」
- Webサイトの代表的なパターンと目的
- ターゲットブラウザの範囲指定
- W3C、JISXなどの企画やガイドラインへの対応
- 社内ディレクターの役割と必要なスキルセット
- Webサイトのミッションとゴールの確認
- 内部組織の権限や伝達方法の把握
- 事業者と業務委託会社の担当範囲
- CHAPTER2 企画(p.37〜74)
- キックオフミーティングの重要性
- 発注者が用意すべき与件とヒアリングシート
- 受託におけるヒアリング方法
- 企画の発想法とアイデアを練るテクニック
- ユーザーファーストの本質を考える
- UXの設計
- UXを可視化する3つの手法
- 提案書を作る際のポイント
- 要件定義書への落とし込み
- サイトを構築・運用する環境の選定ポイント
- 工数の計算
- タスクの構造化とスケジュール
- 概算見積りの作成と工程変更への対応
- メンバーの意識を高めるチーム作り
- 効果的かつ継続的な情報共有の方法
- CHAPTER3 設計(p.75〜118)
- 設計フェーズで作成するドキュメント
- 設計フェーズにおけるワークフロー
- フロー図を作成する
- ワイヤーフレーム制作のベースになる要素
- ワイヤーフレームのパターンと作成方法
- 画面詳細の作成
- プロトタイプの必要性と確認事項
- UXを作り出すには
- デザインガイドラインの策定
- SNSのシェア機能の考え方
- システム設計
- SEO設計
- CMSの選定ポイントと主なCMS
- ECカートとMAツール
- クラウドサービスや外部サービスとの連携
- 開発環境と本番環境の設計
- Webサイトにおけるテスト設計
- CHAPTER4 制作・進行管理(p.119〜138)
- 現場の状況変化に合わせた対応
- マイルストーンの設定とスケジュールの管理
- ルールの策定
- 制作を円滑に進めるコラボレーションツール
- 進捗管理
- プロジェクト内容の確認依頼
- テストを効率化するツール
- Webサイトの公開
- CHAPTER5 運用・改善(p.139〜163)
- 社内での運用ルールと更新のマネジメント
- ヒューマンエラーの回避方法
- 属人化の回避とマニュアル作成
- 企業SNSアカウントの運用方法
- PDCAサイクルを適切に回すには
- サイト改善のためのWeb解析ツール
- 問題発見と課題管理
- リニューアルのタイミングと制作会社移管
SNS・UX・MAなどが新たに登場
これらの頭文字シリーズはWeb領域で仕事をしていく限り、永遠について回るのだと思います。Webディレクターの守備範囲によりますが、私のようなテック系マーケ担当ですと、CVRやらCPAといった成果指標系頭文字シリーズと友達になれます。
UXに関してはUXと言われてなかっただけで、人間中心設計、ユーザビリティ、アクセシビリティ関連のトピックで語られていたと思います。(このあたりは若干自信がない・・・)
なお、SNSは2007年時点でもあったやんけとお思いの方。2007年のSNSは、企業のマーケティング活動では本格的には使われていない時代なので、我らがWebディレクターの標準業務には含まれていないのです。
ディレクションの成り立ちと時代による変化
各項目の中身を詳細に知りたい方は本を購入いただくとしまして、Webディレクションの新標準ルールにも項目立てられている「CHAPTER1 ディレクションの目的と役割:ディレクションの成り立ちと時代による変化」が一番わかりやすい違いだと思います。
Webディレクターに限らず、仕事は時代とともに変わるものです。ただ、2007年時点のWeb領域は業界的には出来上がって10年前後ということもあり、まだまだ過渡期だったということもあります。
デバイス視点だけ切り取って見ても、Web利用はPC中心だったものが、スマホ中心になっています。Webに求める役割も2017年の方がより明確になっています。
社内ディレクターというポジションも、10年前にはこのような業務ガイド本では語られませんでした。制作会社側と社内ディレクターでは、同じWebディレクターでもスキルセットが違うのはものすごく感じます。
例えば、Webディレクションの新標準ルールでは「経営に関するスキル」が、社内ディレクターにあると望ましいスキルと紹介されています。
これは経営者になるということではなく、会社のビジネスモデルを充分に理解して、Webサイトによって自社の売上貢献につなげていくマインドが必要ということです。
Webサイトを作ってマネタイズをするのと、Webサイトを使ってマネタイズ(ブランディング)の差は、両方経験して全然別物だと実感しています。
どちらが良い悪いというのはありません。意識差がどうしても生まれてしまうというだけです。
そのため、プロジェクトの成功のためには、双方の歩み寄りが必要です。私としては、社内ディレクターが、制作会社ディレクターに歩み寄ることが、プロジェクト成功の秘訣だと考えています。わかりやすい歩み寄りの例は「丸投げ」にしないということです。
インターネットが登場して生まれたこの仕事。技術革新・サービス革新の煽りを受けやすいこのお仕事ですが、新しいことが次々出てきますし、覚えることが大量にあるため、毎日楽しくお仕事できています。